研究戦略部 DP・DR制度 研究者インタビュー

researcher interview

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大学院先進理工系科学研究科 檜垣 徹 准教授

広島大学では、「特に優れた研究を行う教授職(DP:Distinguished Professor)及び若手教員(DR:Distinguished Researcher)」の認定制度を2013年2月1日に創設しました。DPは重点的課題に取り組むべき研究を行う特に優れた教授職、DRは将来DPとして活躍しうる若手人材として、研究活動を行っています。

画像処理で医療と産業を支える―深層学習がもたらすCT画質革命

AIによるCTの画質向上で、被ばく量を低減

私は医用画像に画像処理をすることで、診断精度の向上や、患者さんの負担を軽減する研究を進めています。特に力を入れてきたのがCTの画像再構成や画質の改善です。学生時代、コンピュータグラフィックスを学ぶ研究室に所属し、指導教員が医療機器メーカーとの共同研究を進めていたことで、医療分野に関わるようになりました。

医療という分野はニーズにあふれていて、「こういうことができれば助かるのに、技術的にどう実現すればよいかわからない」という課題が数多くあります。それに応える形で研究を進められる点、そして研究成果が多くの人の役に立つ点に、大きなやりがいを感じてきました。

現在進めているのが、国内の大手医療機器メーカーとの共同研究によるCT装置の高度化です。産学連携の枠組みの中で、実機に搭載されることを前提として、技術開発に取り組んでいます。

CTは、X線を出す装置を人の体の周囲にぐるりと回転させながら、照射したX線の吸収量をもとに、人体の断面を画像化する装置です。原理的にはX線量を増やすほど画質は向上しますが、その分、被ばく量も増えてしまいます。そこで私たちの研究グループは、少ないX線量で得られた画像でも高画質な画像を再構成することをめざし、AIに活用されるディープラーニング(深層学習)技術によって、高画質化の実現を進めてきました。

被ばくの低減は、特に若い患者さんにとって重要です。若年層ほど放射線への感受性が高く、この先の人生が長い世代ほど影響が相対的に大きくなるからです。画質の向上によって、CT検査の有用性と被ばくリスクのバランスを最大化することが、研究の大きな目標となっています。

工学のバックグラウンドを活かし医療と連携

具体的な深層学習による画像処理として、主に二つのアプローチを取っています。一つは「ノイズ除去」です。被ばく量を減らすと、得られる画像にノイズが増えますが、私たちは過去のCT画像のデータを「正解」として大量にコンピュータに読み込ませることによって、ノイズを低減させることに成功しました。

もう一つが「超解像」技術です。超解像技術は、最近の4Kテレビなどにも使われている画像処理方法で、解像度の低い画像からより細かな構造をAIが推定し、輪郭や細部を明瞭に再構成することができます。過去に学習した多数のCT画像をもとに「この濃淡の並びであれば、内臓の内部の構造はこうなっている可能性が高い」などと判断しながら画像を生成する点が特長です。従来は、ノイズを減らすと画像がぼけてしまいましたが、この2つのアプローチを組み合わせることで、解像感を保ったままノイズを抑えることが可能になり、臨床現場で使えるレベルの画像処理が実現できました。

胸部CT画像(左:従来画像、右:深層学習により処理した画像)

私はもともと工学の出身ですが、大学院から広島大学医学部放射線診断学研究室に在籍し、医師の先生方と日常的に議論しながら、研究を進めてきました。このように、工学系のバックグラウンドを持ちつつ医学部に約10年間在籍し、臨床の現場に接しながら研究開発を続けていることが、強みとなっています。

人と社会の役に立つことをめざす

近年は、新しい半導体検出器を用いたCT装置の研究にも取り組んでいます。外資企業では、新素材を用いたX線検出器が登場しつつありますが、日本ではまだ開発企業が限られています。このような状況下で国内の先端企業と共同研究ができていることにやりがいを感じています。新たな半導体検出器を用いたCTは、より微細な構造を捉えられ、低線量でも高品質な画像が得られる点が特長です。これまでソフトウエアで実現してきた画質改善を、ハードウェア側でも達成できるようになり、深層学習と組み合わせることで、さらなる性能向上が期待できます。

企業との共同研究は、医療分野以外にも広がっており、地元の広島に本社を置く会社との間で進めています。具体的には生産ラインで発生する「音」を画像化して情報処理をすることで、製品の品質管理や、異常検知を実現する技術開発を進めています。たとえば車であれば正常な「エンジン音」を大量に学習させることで、わずかな異常を検知し原因究明につなげるシステムをつくることができます。

このように、医療では被ばく低減と診断精度の向上、産業では品質向上と現場負担の軽減など、私の研究の軸は一貫して「人と社会の役に立つこと」です。これからも画像処理という基盤技術に深層学習を組み合わせることで、医療と産業の質を高める技術を生み出していきたいと思っています。