大学院先進理工系科学研究科 力石 真 教授
インフラの力で人々の交流を生み出し、自律分散型の都市づくりに貢献する

事業名 | 創発的研究支援事業(JST) |
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採択年度 | 2023年度 |
インフラをポジティブにとらえ直し、社会に新たな価値を提供する
私の専門は、都市計画や交通計画です。この分野は非常に幅広く、私は中でも「インフラをポジティブな視点からとらえ直す」ことで社会に新たな価値を生み出す研究を進めています。
これまでインフラは、主にネガティブを解消する観点から評価・整備されてきました。渋滞を解消するために道路を建設するように、インフラによって現状の不満や問題を解決することが重視されてきたのです。しかし、こうしたアプローチが長期的には逆効果になる可能性もあることが広く知られています。たとえば、道路を建設して渋滞を解消した結果、逆に公共交通から車への移行が進み、結果的に渋滞が悪化するケースも見られます。
そこで私たちは、インフラを「ポジティブを生む手段」としてとらえ直すことにしました。つまり、「どのようなインフラを構築すれば社会に新たな価値が生まれるか」という視点から、インフラの可能性を最大限に生かした社会づくりを実現したいと考えたのです。
社会は複数の都市からなり、都市は住民一人ひとりの行動や意思決定の積み上げで構成されています。そこで私たちの研究では、まず都市における人々の意思決定や行動メカニズムを数理モデルで表現します。その後、このモデルを使用して、どのようなインフラをつくれば人々の意思決定や行動がどう変わるか、その結果として社会にどのような価値が生まれるかをシミュレーションします。これにより、豊かな社会を生むインフラとは何かがわかるはずです。

交流と社会ネットワークの共進化シミュレーションの枠組み。個人が活動に参加し、徐々につながりが増えていく関係をシミュレーションしている
インフラによって交流を増やし、自律的に問題解決できる社会をつくる
「インフラによって生まれる価値」には、さまざまなものが考えられます。今回はこれらのうち、「都市での交流を増やすこと」に焦点を当てた研究テーマ「都市活動のダイナミクスと共同行為の創発」が、創発的研究支援事業(JST)に採択されました。
都市には、行政だけでは解決しきれない多くの課題があります。そのため、課題を見つけた人々が市民団体やスタートアップなどを立ち上げて、自律的にそれらの問題を解決する「ボトムアップ型」の都市づくりが重要です。
では、どうすればそのような都市づくりを実現できるのでしょうか。私は、「人と人との交流」が鍵だと考えています。日常的に交流が活発な都市では、スキルやアイデアを持つ人々が出会い、問題解決のために行動を起こしやすくなるはずだからです。そこで私たちは、「どのようなインフラが人々の交流を促進するのか」をシミュレーションし、自律分散的な社会づくりに役立てたいと考えました。
創発的研究支援事業は原則7年の事業期間があるので、最初の3年間で人々の交流パターンとNGOやスタートアップ数との関係を数理モデル化し、シミュレーションの基礎理論を構築します。後半の4年間では、この数理モデルを活用したシミュレーションを実施し、人々の交流を促進するインフラ計画を立てることをめざしています。
政策の場での議論に使える理論を構築したい
創発的研究支援事業の研究を進めるにあたっては、「説得力のある強固な理論を構築する」ことを重視しています。
「交流を増やす」というテーマは、「渋滞を解消する」といった従来の課題と比べて抽象的で、価値の評価や金銭換算も容易ではありません。単に「交流を増やせばよいことがある」と言うだけでは、政策議論の場では相手にされないでしょう。だからこそ、交流の重要性を数理的に示し、その意義を明確に伝える必要があるのです。
創発的研究支援事業では、こうした整備時に活用可能な理論を構築して、次世代のインフラ整備に向けた第一歩を示したいと考えています。
貧困問題から子どもの送迎まで、インフラの力を幅広く引き出したい
インフラは、私たちの想像以上に多くの物事に影響を与えています。将来的には、貧困や平和といった社会課題から、子どもの送迎や夕飯の買い物といった個人の日常まで、あらゆる側面からインフラの可能性を評価できるようにしたいですね。
また、インフラは時代の変化にも影響を受けます。たとえば、電気自動車の登場により、移動インフラである自動車とエネルギーインフラである蓄電池が密接に関わるようになりました。こうした変化を敏感にとらえるためにも、常に多分野にアンテナをはりながら研究を進めたいと思っています。
インフラによって新たな価値を生み出し、多くの人々が幸せに暮らせる社会を実現する。この目標に向けて、今後も努力を続けていきます。