研究戦略部 DP・DR制度 研究者インタビュー

researcher interview

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広島大学病院 放射線部 河原 大輔 准教授

広島大学では、「特に優れた研究を行う教授職(DP:Distinguished Professor)及び若手教員(DR:Distinguished Researcher)」の認定制度を2013年2月1日に創設しました。DPは重点的課題に取り組むべき研究を行う特に優れた教授職、DRは将来DPとして活躍しうる若手人材として、研究活動を行っています。

 

医療AIで予後予測の先へ。画像を使ったAI技術で医療の限界に挑戦

医療AIでがん治療の改善をめざす

放射線治療は、外科手術、薬物療法とともにがん治療の三大柱のひとつです。放射線治療の過程では、放射線を正しく制御して患者さんに適切な線量を投与することから、放射線照射装置の開発・管理まで、物理学の知識や技術が欠かせません。放射線治療を含めてこれら三大治療では、治療前に撮影するCT、MRI画像などさまざまな医用画像を扱って治療方針を決定します。

もともとは診療放射線技師として放射線治療に従事していましたが、臨床に携わりながら医療を変えることのできる新たな医療技術の開発に関わりたいという思いから、医学物理学の分野に進みました。そのときに興味を持ったのが「医療AI」です。AIの技術は医療全般的にも注目が集まっていますが、とくに医学物理学はコンピュータやAIの進歩がダイレクトに反映される分野であり、放射線治療計画の作成などですでに力を発揮しています。私の研究対象も医療AIで、画像を使ったAIの技術で放射線治療にとどまらずがん治療全体の治療効果の改善に貢献したいと考えています。

AIによる予後予測からさらに要因の解明へ

私の研究は、放射線治療を行う前に撮影された患者さんにおける病変部分のCTやMRI画像から、放射線治療の予後をAIで予測するというものです。人間の目ではがんのステージを診断することはできても、同じようなステージのがんの画像から治療の効果の良し悪しを予測することは容易ではありません。そこで、AIに膨大な量の画像データを学習させ、放射線治療の効果があるかどうかを判定させます。

治療前の画像からAIで予後を予測させる研究はこれまでにも行われてきました。治療の予後を正確に予測できたとして、予後良好と予測されれば予定している治療を実施すればよいのですが、予後不良と判定された患者さんにどのような治療をすればよいかという問題は残ります。私はこのAIによる画像の判定を予後予測で終わらせず、予測の次の段階にまでつなげたいと考え、予後が良くないと判定された場合に、同じ画像からその患者さんに効果的な薬や放射線治療の条件を探索できるような画像ベースの新規AI創薬、新規AI治療条件探索技術の開発に取り組んでいます。

従来のAIによる予後予測は、患者さんの画像の特徴から予後が良いか悪いかを判別できても、それがなぜなのかということまではわかりません。そこで、画像診断に遺伝子情報や病理情報といった生化学的なデータを組み合わせ、予後が悪くなる要因をまず解明します。生化学的な要因がわかれば、それに対応できる薬や放射線治療の条件を新たなAIで探索することが可能になります。

すでに、人の画像と生化学的データから予後予測の背景にある原因を解析するAIのシステムは完成しており、解析結果が実際に正しいかどうかを動物実験で確かめる段階に進んでいます。そこからさらに発展させ、解析結果に基づいた効果的な薬や放射線治療の条件の探索まで可能なシステムとして完成させることが短期的な目標です。

画像をベースにした究極のオーダーメイド医療をつくる

AIが予後を予測し、その結果をもとに治療方針を提案するイメージ図

 

より長期的な目標としているのが、創薬までつなげるシステムの開発です。患者さんの画像から放射線治療の予後を予測し、予後が思わしくない場合にはその原因を解析して、治療のために最適な薬を新しく設計する。患者さん一人ひとりに最適な治療法を提供するオーダーメイド医療です。

オーダーメイド医療というと、遺伝子などの生化学的な情報に基づいて患者さんごとに個別化するものが一般的ですが、私はAIを使って画像から最適な治療法を探索することをめざしています。画像情報には、従来の医療の限界を超える可能性があると感じているためです。

たとえば、いまのオーダーメイド医療ではがんのほんの一部の細胞を採取して遺伝子を検査し、どのような治療が効果的なのかを判定しています。しかし、がんは非常に複雑で不均一な組織であり、細胞分裂が活発な領域もあれば壊死している領域もあります。一部の細胞の情報だけでは、がん全体について正しく判断できない可能性もあるのです。これに対し、がんの全体像をとらえることができる画像からは、より多くの情報が得られると考えています。

最終的には、AIの研究と並行して取り組んでいるがん細胞のコンピュータシミュレーション技術と組み合わせたいと思っています。患者さんのCTやMRIの画像から、予後に関わる因子をAI技術で解明した後、個々のがん細胞の状況を理論シミュレーション上で再現してどう変化するのか解析できれば、AIの視点とは別に理論的にもがん発生から治療効果までを把握することができます。

医療AIは、限界を人間では決められないほど進歩が大きく、可能性が広がっている技術です。これまで思いつかなかった、画像から最適な治療を提案することができれば、人間が考える医療AIの限界を乗り越えることができるのではないかと思っています。