第2回
『美しさとデザイン:歴史、未来、多様性』を開催しました
日時 | 2021年2月3日(水)16:30~18:00 |
---|---|
場所 | Zoomにてオンライン開催 |
参加者 | 延べ48名(大学教職員、大学院生、企業、自治体など) |
プログラム | 話題提供者からの短い話題提供後、自由な対話 |
主催 | 広島大学 学術・社会連携室 URA部門(人間社会科学研究科担当) |
第2回は、デジタルとアナログ、リアルとバーチャルの美しさの価値など、司会と話題提供の先生方によるとても興味深い議論であっという間の1時間半でした。

司会役と話題提供者は会場に集合(八木先生はオンライン参加)

終了後、しばし歓談
話題提供
- 八木先生は、プロダクトやグラフィック、空間など様々なものをデザインするデザイナー、公共的な文脈における視覚表現を研究する研究者、過疎集落の持続可能性を研究する研究者、という風に自身の中に3人の違う人間がいる感覚があるそうです。VRやAR等により「リアリティ」が再定義されつつある時代に、ありのままの「リアル」であることにどのような価値/意味を見出すか、という点の提起もいただきました。
- 多田羅先生は、古い日本の絵を対象に、過去に生み出された美の価値を探求する作品研究や、美術の研究資料の研究をされています。例えば、17世紀の画家は絵の注文者や受注金額も考慮しつつ資料を基に絵を描き、絵はいわば社会の中でつくられるものだったそうです。劣化していくモノの記録・保持やデジタル・アーカイブ、デジタル・インターフェイスでの鑑賞体験が生む楽しみや親しみにも注目されていました。
- 栗田雄一先生は、人と機械の相互作用、特に物理的な相互作用の「触感」や「力感」に関心をお持ちとのこと。建機の遠隔操作や超人スポーツなどの取組みに触れつつお話しいただきました。「リアル」の価値の一方で、栗田先生は、むしろデジタルの方がリアルになりつつある、少なくとも自分たちはそれに向け研究や開発を進めているとのことでした。オリジナルのモノの情報や価値の伝送についても言及されました。
トークのハイライト
- 物質性が担うオーラ(アウラ)やオリジナルで「リアル」なものの価値をどう考えるか、そうした価値のデジタルへの技術的な伝送可能性、また仮想とデジタルの中をどう生きるか、新しい美しさや価値の発見、といった議論で盛り上がりました。
- 天才が作った一点ものの芸術作品と異なり、生成の段階からデータとして存在し「本物」が1つでない、複数性のあるアートや楽しみ方が出てきているのではないか、という論点も出ました。作品が「オリジナル」たる要因とは何か、またそれらは技術的にデジタルで伝送できるものなのか、静的な情報と動的な情報、など話が広がりました。
- 対比されがちなリアルとバーチャル、フィジカルとサイバー、デジタルとアナログ、の境界は実際は曖昧で、今後数十年で変わっていくのではないか、ということでした。
- 美術品のデジタル鑑賞などデジタルの活用を通じ、逆に本物をみたい気持ちが触発されるなど、オリジナルなものの価値向上になる可能性も秘めており、デジタル技術の進展と活用で、鑑賞の多様性や作品の多層性が進むのではという論点も出ました。
司会の桑島先生から
美や感性とデザインが主題ということで、うっかり司会役を引き受けてしまった。テーマの面白さと話題提供者の魅力のため、広大内外、学部生から他大学教職員、公立ミュージアム学芸員や製造・金融・医療機器の意匠開発者まで、総勢約45名の参加があった。むろんこれは、広大URA部門スタッフの周到な準備の結果でもある。記して、参加の皆さんならびにスタッフの皆さんに感謝申しあげたい。
トークに先立ち、司会者から3つの問いを投げかけてあった。「そもそも美とは?デザインとは?」「2050年or 2101年の〈まち〉や〈ひと〉の風景は?」「新たな美的or感性的or芸術的な価値とは?」である。各話題提供者が研究関心・研究対象を自由闊達に語りながら、上記に即して具体的なイメージをぶつけ合ってもらいたかったからである。議論を進めるなか、ある時空で生まれたオリジナル作品のもつアウラとその経年変化、ヴァーチャル/リアルの境界の希薄化(ないし、その往還の重要さ)、触覚・力覚など身体感覚の実用的デジタル化、さらにそのデジタル化では到達不可能な生命の問題などが焦点としてあぶりだされた。
トークの雰囲気は終始気楽なものであったろう。しかし、時に知的なやりとりに熱が入って、美やデザインをめぐる文理融合的な知のマリアージュの妙を堪能できたと思う。司会役としては、ここで巻いた幾つかの知の渦が、また別の渦とぶつかり合い、多様な共創的知の動きへと展開していくことを期待するばかりである。
.jpg)
文責:広島大学 学術・社会連携室 URA部門(福本)