実施報告
人間社会科学研究科 中矢礼美 教授 (2025年度 広島大学研究ネットワーク形成支援助成制度【新規国際会議】)
| 名前 | 中矢 礼美 教授 |
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| 所属 | 人間社会科学研究科 |
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イベント名: 平和教育の多様性と体系化:戦後80年、これまでとこれからの平和教育を考える国際対話
- 開催期間: 2025年9月21日~9月22日
- 開催場所: 広島大学 東千田キャンパスSENDA LAB
- 総参加者数: 350名 (うち海外研究者4名) ※オンライン280名
- 実行委員を務めた若手研究者: 人間社会科学研究科 金鍾成 准教授、渡邉巧 准教授、山崎茜 講師、姜姫銀 助教、李受珉 助教


対面とオンラインを合わせて約350名が参加し、国内外の研究者や実践者が集い、平和教育の現状と今後について多角的な議論が交わされた。開会にあたり、広島大学理事・副学長(教育・平和担当)である鈴木由美子氏より、本シンポジウムが戦後80年にあたり、広島という被爆地から、平和教育の学問的体系化と継承に向けた第一歩を踏み出すものとしての意義が述べられた。
続いて、村上登司文氏(京都教育大学)による基調講演「平和教育学の確立に向けた取り組みとこれから」が行われた。長年にわたる研究を踏まえて、平和教育の類型、日本の平和教育の変遷、特徴と課題が海外との比較と様々な研究調査結果に基づいて説明された。そして、「平和教育のさらなる発展のためには、理論と実践が断片的に存在するのではなく、『学問分野としての平和教育研究』を切り拓く必要があること」が提言された。
基調講演後は、渡邉巧氏(広島大学)の司会のもと、フロアやオンライン参加の研究者、高校生、現場の教員の方々から質疑応答が活発に行われた。その一つに、「平和教育はイデオロギー抜きで実施可能なのか」という質問があった。村上氏からは平和は大事だという主張を持つ点でイデオロギーだという事もできるが、政治的なイデオロギーに巻き込まれることなく平和教育を研究し実践することが重要であると回答された。
パネルディスカッションでは、国内外6名の登壇者から平和教育の多様化と体系化について、多様な視点が提示された。 淺川和也氏(明治学院大学)は「平和教育の多様性と体系化―ハーグ・アピールの提言から25年」と題して、ハーグ・アピール以降の平和教育地球キャンペーンの展開、日本での特別教育活動、教科および総合的な学習の時間での多様な平和教育実践が語られ、VUCA時代のグローバル人材育成政策批判、平和教育のカリキュラム開発、適切な実践スキルの育成など、実践と理論をつなぐことの重要性が強調された。
Werner Wintersteiner氏(クラゲンフルト大学/オーストリア)は「欧州における平和教育の三つの課題」と題して、暴力文明、ポストコロニアル、地球規模の課題を軸に、平和教育の根本的な再構築の必要性が示され、プラネタリー・シティズンシップを育む教育の可能性が示唆された。
Tony Jenkins氏(ジョージタウン大学/アメリカ合衆国)は、「Diversification and Systematization of Peace Education—Directions for the Society as an Academic Organization Aiming to Establish Peace Education Studies」と題して、変革的主体性を育む教育の重要性と、学習者と過去・現在・未来・他者の関係性を重視した教育学的アプローチが紹介され、これまで平和教育の理論の体系化と深化に向けた論点が提示された。
Loreta Navarro-Castro氏(ミリアムカレッジ/フィリピン)は「Selected Good Practices in Peace Education: a Perspective from the Philippines」と題して、ホールスクール・アプローチや教員養成を通じた平和教育の制度化の推進による実践が紹介され、地域に根ざした持続的な平和教育の取り組みのモデルが共有された。
野島大輔氏(立命館大学)のご発表「国際関係学から構成する平和教育の開発事例-日本国内で「平和教育学」を確置するためにー」では、高校社会科での国際平和とグローバル市民性を探究するカリキュラム開発・実践と成果が報告された。長い時間をかけて国際関係学と教育学の協働の方向性を模索・開拓されてきた軌跡とその成果から、今後の平和教育学の再構成のあり方、進め方について重要な示唆を得た。
Kevin Kester氏(ソウル国立大学/韓国)は「平和教育の多様性と体系化:ポストクリティカルなアプローチへの展望」と題して、ポストクリティカル平和教育の理論的枠組みと実践の可能性が提案され、クリティカル平和教育を継承しつつ感情や身体性、関係性の支援を重視する新たな教育の方向性が示された。
その後、金鍾成氏(広島大学)の司会のもと、ディスカッションと質疑応答が行われた。ディスカッサントの中矢礼美氏(広島大学)からは、平和教育の体系化に向けて重要となる「文脈化」と「平和構築のための主体性の育成」という二つの視点から、多様な平和教育の体系化の可能性について登壇者に問いかけをし、議論が深まった。また、フロアとの質疑応答においては、参加者から活発な質問があり、実践的な視点が共有された。
閉会の挨拶では、人文社会科学研究科長である松見法男氏から、今回の平和教育についての国際シンポジウムの意義の今後の発展について激励が送られた。
以上みてきたように、本シンポジウムでは、理論と実践、国内と海外、教育現場と政策の視点から議論が行われ、平和教育の多様性と体系化を議論することの意義について改めて考える機会となった。主催である広島大学平和教育学ワーキンググループでは、年内での平和教育学会設立を目指しているところであるが、平和教育に携わる多くの実践者や研究者、平和教育に関心のある学生・生徒の熱意とつながりを実感し、学会設立後の発展に向けた確かな手応えを得ることができた。