実施報告
情報メディア教育研究センター 稲垣知宏 教授 (2025年度 広島大学研究ネットワーク形成支援助成制度【タイプC】)
| 名前 | 稲垣 知宏 教授 |
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| 所属 | 原爆放射線医科学研究所 |
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イベント名: 第63回パグウォッシュ会議世界大会
- 開催期間: 2025年11月1日~2025年11月5日
- 開催場所: 広島市・広島国際会議場
- 総参加者数: 330名 (うち海外研究者130名)
- 実行委員を務めた若手研究者: 先進理工系科学研究科 Nicholas J Benoit 選抜助教



1955年に発表されたラッセル=アインシュタイン宣言は、核兵器が人類にもたらす非人道的な結末への強い危機感と、科学者が果たすべき社会的責任を世界に訴えるものでした。その宣言をきっかけに、東西冷戦の緊張が極まる1957年、カナダの漁村パグウォッシュに、米国・ソ連を含む世界の科学者22名が集結し、核の危険性や放射線被害、科学者倫理について初めて国境を越えた真剣な討議が行われました。日本からも湯川秀樹、朝永振一郎、小川岩雄の3名が参加しました。この会議の成功を契機として「パグウォッシュ会議」は継続される国際対話の場となり、核兵器の廃絶と戦争のない世界の実現を目指す科学者ネットワークの名称としても世界に広がりました。本会議は、核兵器の拡散防止・核廃絶・戦争廃絶・人間の安全保障の実現を目的とし、「国際紛争は平和的手段で解決しなければならない」「武力による威嚇および行使を慎まなければならない」という国連憲章の遵守を根幹理念としています。
第63回大会は、被爆80年・戦後80年の節目に広島で開かれた3回目の世界大会であり、1995、2005年の開催に続き、再び世界の研究者・専門家がこの地に集いました。基調講演、公開パネル、被爆者・市民との対話は一般公開され、各国の首相や大臣経験者といった政府官関係者や核廃絶に関わるノーベル賞受賞団体の代表も登壇し、会場からの質疑応答を交えた対話型セッションとして実施されました。
本大会の成果は大きく5点に集約されます。
- 各地域(中東、ヨーロッパ、北東アジアなど)の核リスクと安全保障課題について、科学者レベルの信頼醸成と対話継続の枠組み強化が合意されたこと。
- 核軍備管理・軍縮の停滞が懸念されるなか、具体的提言を政策文書として評議会に反映させるプロセスを明確化したこと。
- 原子力の平和利用と核不拡散の両立について、エネルギー・倫理・安全の観点から対立を超えた協調的議論のモデルが提示されたこと。
- AI、宇宙、量子、バイオなどの先端科学技術が核リスク構造に与える影響評価とガバナンスの必要性が深く議論されたこと。
- これらすべてをふまえ、広島から世界へ向けて、核兵器のない世界の実現へ直結する具体提言として「広島宣言」が発表されたこと。
公開セッションでの多様な登壇者との議論、そして被爆者や市民との交流は、核の脅威が単なる「地政学的問題」ではなく「人間の安全保障の危機」であることを改めて浮かび上がらせました。参加者は被爆の記憶と教訓に深く学ぶことで、核廃絶への意思を強め、科学と社会がともに歩む新たなアクションの方向性を確認しました。
世界の緊張が高まる不透明な時代だからこそ、本会議が提供した平和的紛争解決のための国際対話の場は重要な意味を持ちます。本大会を通じて広島から発信されたメッセージと提言は、各国・国際機関・市民社会との連携を通じて実行フェーズへ進みます。我々は今後もPugwashの理念を継承し、核リスク低減・科学者の社会的責任・先端技術の客観的評価に基づく協調的提言の発信拠点として、国際社会と共に活動を続けてまいります。