研究戦略部 研究推進活動について 研究井戸端トーク

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第10回 (番外編)

『J-PEAKSってなに? 研究者が語る未来 〜放射光×半導体×超物質×バイオの融合が拓く可能性〜』を開催しました

開催情報
日時 2025年11月27日(木)16:30~17:30
場所 広島大学ミライクリエ1F多目的スペース&オンライン(Zoom)ハイブリッド開催
参加者 学内外の研究者・大学院生、企業・一般の方どなたでも!
プログラム

簡単な話題提供、参加者も含む自由な対話

司会・ファシリテーター:
<放射光> 奥田 太一 教授(放射光科学研究所)
話題提供者:
<半導体> 横川 凌 助教(半導体産業技術研究所)
<超物質> 小鳥居 祐香 准教授(大学院先進理工系科学研究科)
<バイオ> 青井 議輝 准教授(大学院統合生命科学研究科)

※イベント終了後、会場にて交流会実施

主催 広島大学 未来共創科学研究本部 研究戦略部 研究戦略推進部門

本学は、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択され、新たな研究体制の整備と異分野融合による産学官連携の推進を進めています。そこで、今回は通常とは異なる特別企画(番外編)として、J-PEAKSをテーマにしました。J-PEAKS の重点分野である「放射光・半導体・超物質・バイオ」に携わる研究者を招き、会場とオンライン併せて40名以上の参加者と、異分野融合による新たな研究の可能性について議論を交わしました。

議論が盛り上がっています

学生さんから難しい質問も!

半導体 × 放射光で広がる未来

横川 凌 先生(半導体産業技術研究所)

横川先生からは、近年のAI・IoT社会の進展に伴う電力需要の増大と、それに応えるための半導体技術の課題と展望についてお話しいただきました。AIの性能向上やデータ量の増加により、2025年から2030年にかけて電力消費は大幅に増加すると予測されており、センサーやスマートフォンの台数増加による「電池交換の手間」の問題も無視できません。こうした背景から、“とことん消費電力を抑える”超低消費電力デバイスや、温度差や振動など身近なエネルギーを電気に変える自立型デバイスが、今後重要になると指摘されました。

しかし、半導体業界では長年性能を向上させてきた“微細化”技術が、すでに原子スケールの限界に近づいており、平面的な微細化では性能向上が難しくなっています。そのため、立体構造(3D化)の導入や、シリコン以外の新材料の積極的な研究が求められています。横川先生ご自身は、明治大学時代から半導体材料の物性評価を専門とし、広島大学へ移ってからはクリーンルーム環境を活用してデバイスの作製にも取り組まれています。

特に印象的だったのは、放射光による界面・表面評価の優位性に関するお話です。横川先生は、広島大学放射光科学研究所(HiSOR)で取得したシリコン酸化膜のスペクトルを例に挙げ、実験室レベルの装置ではぼやけて見えるピークが、放射光では鮮明に分離して観測できることを紹介されました。これは、デバイス性能を決定づける“界面の質”を精密に把握する上で極めて重要であり、放射光の活用が新材料研究や次世代デバイスの開発を大きく前進させる可能性を示しました。

横川先生は、「異分野の研究者と放射光を介して協力することで、これまでにない評価技術やデバイス設計が可能になる」と述べ、今後の共同研究への期待を込めて発表を締めくくられました。

トポロジーで物性を読み解く

小鳥居 祐香 先生(先進理工系科学研究科・持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点(WPI-SKCM2))

小鳥居先生からは、数学の中でも特に「トポロジー」および「結び目理論」と呼ばれる分野について、専門外の参加者にもわかりやすく解説していただきました。トポロジーは、物体をゴムのように“ちぎらず・くっつけず・連続的に変形できるか”という観点で形の性質を捉える数学の一分野であり、コーヒーカップとドーナツが「穴の数が1つで同じ」とみなされる有名な例が紹介されました。

結び目理論では、一本の紐を輪にしたものを“切らずに変形して”同じかどうかを判断します。一見まったく違う結び方に見える2つの紐が、実は連続変形で同じ形になることも多く、そうした判別には高度な数学的手法が用いられます。小鳥居先生は、結び目の分類(どんな結び目があり得るかを網羅する研究)と、結び目判別(2つが同じかどうかを識別する研究)が大きなテーマであり、いずれも未解決の部分が多い奥深い分野であると紹介されました。

さらに、先生は編み物構造のキラル性と物性を関連付ける研究にも参画されており、数学的な構造解析が新しい物質の性質理解に貢献し得ることを紹介されました。編み目の右巻き・左巻きといった“幾何学的特徴”が、物質の電気的・光学的性質に影響するという視点は、物質科学の研究者にとって新鮮であり、参加者の関心を引きました。

また質疑応答では、DNAの螺旋構造との関連について質問があり、数学・物性・生命科学が交差する可能性がある領域として、今後の研究展開が示唆されました。小鳥居先生は「数学は抽象的に見えるが、物質の構造や分類に応用できる」と語り、異分野融合の広がりを感じさせる内容でした。

培養できない微生物に挑む

青井 議輝 先生(統合生命科学研究科)

青井先生からは、ほとんどの微生物が“培養できない”という生物学の根本的な問題と、それを克服するための革新的な技術開発について紹介がありました。微生物は地球上の生物多様性の大半を占めるにもかかわらず、従来の方法で培養できるものは約1%に過ぎず、その背景には「培地の組成が合わない」といった単純な要因だけでなく、微生物同士が代謝物を介して互いに影響し合う“相互作用”が重要な鍵になっているのではないかという仮説が示されました。

これを検証するため、青井先生が開発されたのがGMD(ゲルマイクロドロップレット)法です。これは、アガロースゲルの小さな粒(10〜30µm)の中に微生物を1細胞ずつ閉じ込め、それを油中で凝集させる技術で、ゲル同士は物質だけを交換しながらも細胞は混ざらないという特殊な環境を作り出します。これにより、微生物間の相互作用は保ったまま、個々の微生物の純粋培養が可能になります。

実験の結果、従来法では培養した微生物のうちわずか1〜2%しか増殖しなかったのに対し、GMD法では約50%も増殖するという劇的な効果が得られました。この結果は、微生物の世界における“相互作用依存性”が非常に強いことを示し、今後の微生物資源の発掘に新たな道を開くものです。また、この手法は多様な微生物を同時に扱えるため、有用微生物のスクリーニングにも応用できると説明されました。

会場からは「微生物の世界が予想以上に複雑で驚いた」「相互作用を維持しながら純粋培養できる点が面白い」といった声が寄せられ、生命科学の深さを感じさせる内容となりました。

質疑応答・ディスカッション

最初の質問は、青井先生の発表に関心を持った学生さんからで、「微生物を閉じ込めるゲル粒子(GMD)を作る際に使う油の種類によって、増殖や相互作用に違いが出るのか」という技術的な質問でした。これに対し青井先生は、GMDは水溶性のゲルであり、油の中に浮かんでいる構造のため、基本的に物質の交換はゲル同士の間で行われると説明されました。油の影響は比較的小さく、むしろゲル同士が「界面活性剤の有無」によって分散したり凝集したりする点が重要であると述べられ、GMD作製の工夫や温度条件など、実験の裏側を交えた丁寧な回答が印象的でした。

続いて、司会の奥田先生からは、横川先生・小鳥居先生・青井先生に対し、「放射光が各分野でどう役立つか」という、J-PEAKSならではの本質的な問いが投げかけられました。これを受け、小鳥居先生は「結び目そのものが放射光で見えるわけではないが、紐状・編み状の物質構造を扱う物質科学側が放射光を使えば、その解析結果を数学的に解釈する余地はある」と応じ、結び目理論が物質構造理解へ広がる可能性を示されました。一方、青井先生は「自身は分子構造解析を中心とした研究ではないが、微生物が作り出す新しい物質やタンパク質を評価する際には、放射光が重要になる場面がある」と述べ、バイオ分野と放射光との接点を示唆しました。横川先生からも、界面解析で得た具体的なデータを踏まえ「放射光は半導体材料評価に確かなメリットがある」と再度強調され、放射光を軸とした異分野融合のイメージが明確になりました。

さらに、来場者からは「DNAの螺旋構造と結び目理論の関係」について質問があり、小鳥居先生は「DNAは確かに紐状でトポロジー的な扱いが可能であり、過去にも研究例がある」と紹介されました。その後、奥田先生から「DNAの螺旋を電子が通るとスピンが揃う現象も物性として面白い」とのコメントが加わり、数学・生命科学・物理学が交差する興味深い議論へと発展しました。

また、日常生活に身近な話題として、「スマートフォンが“充電不要”になる未来は訪れるのか」という質問も寄せられました。横川先生は、熱発電技術の原理自体は確立しているが、実用レベルでスマートフォンを動かすにはまだ大きなギャップがあるとし、「完全に充電不要にするのは遠い未来だが、デバイスの省電力化によって電池寿命を延ばすことは十分可能である」と現実的な展望を述べられました。これに対し参加者からは、「夢のある技術だ」といった声や、「AIの普及で消費電力が増えるという話が興味深かった」との反応もありました。

全体を通して、質問は技術的なものから未来予測的なものまで幅広く、登壇者も互いの分野に興味を持ちながら応答する姿勢が印象的でした。学内外の参加者が対話に加わることで、異分野の理解が深まり、研究者同士が新たな視点を得る場となったことが感じられました。

研究井戸端トークを終えて

奥田 太一 先生(放射光科学研究所)

放射光科学研究所は、世界的にも珍しい「大学キャンパス内の放射光施設」として、国内外から多くの研究者が集まる拠点となっています。一方で、総合大学である広島大学には、社会科学、工学、理学、生命科学、医学など多様な分野の研究者が在籍していますが、専門化の進む現代において、他分野の研究者と議論する機会は意外に少ないのが現状です。

このような中でスタートした J-PEAKS は、放射光を核に異分野をつなぎ、新たな国際的研究拠点を形成することを目指す取り組みです。半導体・数学(超物質)・バイオという、一見全く違う世界で活躍されている三名の研究者の皆様にご登壇いただいた今回の「研究井戸端トーク」は、まさにその理念を象徴するイベントとなったのではないかと思います。

今回のイベントを通じて、異分野の研究者が顔を合わせ、自由に語り合うことで、新たな連携の芽が生まれる可能性を、私自身強く感じました。今後もこのような機会を重ね、広島大学が、多様な知が交わり相乗効果を生み出す「ワクワクする大学」へとさらに発展していくことを期待しています。

交流会は茶菓子を食べながら楽しい会でした

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